大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2882号 判決

〔証拠〕を総合すれば、一応次のような事実を認めることができる。

太田喜一は太田むめのとともに第二物件の建物において旅館業を営み、その経営の必要上連帯して控訴人より数次にわたり金員を借受けてきたが、さらに昭和四〇年九月頃右第二物件を担保として控訴人から金五一〇万円を借受け、右第二物件につき同年一〇月八日付で控訴人を権利者とし売買予約を登記原因とする所有権移転仮登記をした。ところが右喜一らは右借受金を約定どおり返済することができなかつたため、右第二物件の所有権の帰属について紛争が生じ、控訴人より右喜一およびむめのを被告として東京地方裁判所に家屋明渡等請求の訴が提起されたが、昭和四二年四月一四日にいたりむめのは第二物件を控訴人に昭和四〇年九月二九日代金五一〇万円で売渡したことを確認し、その旨の所有権移転登記手続をすること、喜一およびむめのは控訴人に対し第二物件を昭和四二年七月末日限り明渡し、控訴人は喜一に対し移転料として金一〇〇万円を贈与すること等を内容とする裁判上の和解が成立し右訴訟は終了したが、その際第二物件に設定されていた(註、申請外商工中金等のための)前記抵当権、根抵当権あるいは所有権移転仮登記ないし停止条件付所有権移転仮登記により担保されている債権約七七〇万円については、右第二物件の当時の時価が右債権額と控訴人の前記貸金五一〇万円との合計額を上回ると考えられ、他方むめのらには第二物件を除いては他に資産がないため、控訴人においてむめのらに右被担保債権が約七七〇万円であることを確認せしめた上、右債務の履行を引受ける旨約定されたことが一応認められ、<反証排斥>被控訴人は、控訴人は太田むめのに対し同人の商工中金に対する債務の履行を引受けたのであるから、主たる債務者たるむめのに対し控訴人が右中金より譲受けた債権を行使することができないと主張するので、この点につき検討する。

控訴人が前記和解の際第二物件に設定されている商工中金等の抵当権等によつて担保されている債務の履行を引受ける旨約定したものと認めるべきことは前記のとおりであるから、右履行引受契約の履行として控訴人は太田むめのに対し同人の商工中金等に対する右債務を弁済すべき義務があることは明かである。しかるに他方控訴人は、商工中金からの債権譲受によつて債権者たる地位を取得したのであるが、両者を統一的に理解すれば、控訴人はむめのに対する関係では自ら弁済すべき義務ある債権を取得したこととなるのであり、右履行引受の効果としてむめのに対しては右債権は自らが弁済すべき義務を負い、債権者であつてもむめのにはその弁済を求めることはできないものというべきである。このことは主たる債務者に代位して弁済をした場合においても、履行引受義務の履行として代位弁済をした者は、もはや求償権の行使としても主債務者には旧債権者の有した権利を行使しえないものと考えるべきことと同様である。そうでなければこれ、右手に与えて左手に奪うこととなり、矛盾というべきこととなるからである。従つてこれを主債務者の側からいえば、主債務者たるむめのは控訴人の請求に対しその弁済を拒むことができるといわざるを得ない。本件被控訴人は右むめのの連帯保証人であるから、主債務者の右抗弁を援用し得ることは多言を要しない。従つて被控訴人の右抗弁は理由がある。然らば控訴人の本件仮差押申請は被保全権利を欠くものというべく、また保証をもつてこれに代えることもすでに認定したところによつて相当でない。

(浅沼 岡本 田畑)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!